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#2/ 全6回

国産LLMを国はなぜ作らせるのか GENIAC・源内・ABCI 3.0を読み解く

佐々木 航@w_sasakiwith Claude Code読了 約20分

この記事でわかること

  • 国が国産 AI にお金を出す理由と、予算の桁
  • GENIAC・Noetra・源内・ABCI 3.0 の役割の違い
  • 2027年4月の有償調達までの日程と、自社での読み方

確認した環境: 経済産業省・NEDO・デジタル庁・内閣府・産総研などの公式の発表 / 2026年10月25日に確認

海外の AI がこれだけ賢くなったのに、なぜ国は、わざわざ国産の AI にお金を出すのでしょうか。

米大手 4 社の設備投資を 230 ほどのマスで表し、日本の 2026 年度の AI 関連予算が緑の 1 マスにあたることを示した図
この回の扉作図: 編集部

公式の資料を順に読むと、答えは「海外の最先端を追い抜くため」ではありませんでした。国が目指しているのは、海外の AI を使いながらも、特定の国や企業に頼りきらずに済む選択肢を、国内に持っておくことです。そのために、モデルを作らせる、計算機を用意する、自分で買って使う、方針を法律と計画に書く、の 4 つを同時に進めています。

GENIAC・源内・ABCI は、ニュースでは別々に出てくるので、どこでつながっているのかが見えにくい名前です。この記事では、国産の LLM(大規模言語モデル。文章を読み書きする AI の中心になるモデル)をめぐる国の動きについて、なぜ・いくら・何を・誰が使う・自分の会社に関係あるか、という素朴な問いを 1 つずつ重ね、短く答えていきます。数字と日付は、経済産業省・NEDO・デジタル庁・内閣府・産総研などの公式の発表で、2026年10月25日に確かめました。

国はなぜお金を出すのか: 海外の AI に頼りきらないため

AI 基本計画は、AI 法(2025年9月に全面施行)にもとづいて政府が決める計画です。2026年7月14日に閣議決定された第Ⅱ期は、日本の目標に「開かれた『AI主権』(AI Sovereignty)を確立する」を掲げています。

ここでいう主権は、全部を自前でそろえることではありません。計画は「特定の国や企業への過度な依存を避けるため、複数モデルを統御しながら利用する」としていて、海外のモデルも使う前提です。そのうえで、行政・防衛・重要インフラについては、計算資源・データプラットフォーム・モデル・アプリの自律性を強め、「耐遮断性と運用能力を確保する」としています。

耐遮断性について、計画に細かい定義はありません。文脈からは、海外のサービスが途切れても、国内で仕事を止めずに続けられることと読めます。外食で十分においしくても、台所を手放さなければ、店が閉まった日も食事は作れます。国内で動かせるモデルと計算機は、この台所にあたります。

なお、計画の本文に「国産 LLM」という言葉は出てきません。国内で作るモデルは「国内で開発されたAIモデル」と書かれています。

1 作らせる: GENIAC(2024年2月から、計算資源の利用料などを補助、第4期は領域特化の16件)とマルチモーダル基盤モデル事業(Noetra と産総研、2026〜2030年度、初年度3,873億円)。2 計算機を用意する: ABCI 3.0(H200 6,128基、公的な利用が中心)と GPU クラウドへの助成(民間9件に最大で計約1,278億円)。3 買って使う: 源内(政府職員約18万人の大規模実証)と国産モデルの調達(2027年4月から有償の予定)。4 方針を書く: AI 法(2025年9月に全面施行)と AI 基本計画 第Ⅱ期(開かれた AI 主権、耐遮断性)。共通する狙いは、特定の国や企業に頼りきらない選択肢を国内に持つこと1 作らせる: GENIAC(2024年2月から、計算資源の利用料などを補助、第4期は領域特化の16件)とマルチモーダル基盤モデル事業(Noetra と産総研、2026〜2030年度、初年度3,873億円)。2 計算機を用意する: ABCI 3.0(H200 6,128基、公的な利用が中心)と GPU クラウドへの助成(民間9件に最大で計約1,278億円)。3 買って使う: 源内(政府職員約18万人の大規模実証)と国産モデルの調達(2027年4月から有償の予定)。4 方針を書く: AI 法(2025年9月に全面施行)と AI 基本計画 第Ⅱ期(開かれた AI 主権、耐遮断性)。共通する狙いは、特定の国や企業に頼りきらない選択肢を国内に持つこと
国産 AI を後押しする国の 4 つの役。作らせる(経済産業省・NEDO)、計算機を用意する(産総研・経済産業省)、買って使う(デジタル庁)、方針を書く(内閣府)撮影・作図: 編集部

いくら出しているのか: 2026 年度は約 5,027 億円、2027 年度の要求は約 2.9 兆円

内閣府の集計では、国の AI 関連予算は 2026 年度の当初予算で約 5,027 億円です。2025 年度の 1,969 億円から約 2.6 倍になり、そのうち 4,559 億円が「AIを創る」の分類に入っています。

いちばん大きいのは、経済産業省の「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の 3,873 億円(新規)です。フィジカル AI は、ロボットや機械を動かして、現実の世界で働く AI のことです。

2027 年度の概算要求は 2 兆 9,392 億円で、ほかに金額を示さない事項要求が 26 件あります(内閣府が 2026年9月18日に公表)。経済産業省は、マルチモーダル基盤モデルの事業だけで約 8,964 億円を求めています。まだ要求の段階なので、年末の予算案で金額は変わりえます。

当初予算とは別に、補正予算もあります。2025 年度の補正は約 4,380 億円で、デジタル庁の「ガバメントAIの推進」44 億円もここに入っています。一方、GENIAC だけの予算額は、公表資料では見つかりませんでした。NEDO の基金(ポスト 5G 情報通信システム基盤強化研究開発事業)から出ていて、2027 年度は金額を示さない事項要求です。

棒グラフ。当初予算と補正予算は、2017年度 576と146、2018年度 770と290、2019年度 1,178と2,580、2020年度 1,168と3,134、2021年度 1,025と456、2022年度 1,127と452、2023年度 1,138と3,179、2024年度 1,176と1,653、2025年度 1,969と4,380。2026年度の当初は5,027で、うち3,873がマルチモーダル基盤モデル事業。2027年度の概算要求は29,392で、ほかに事項要求26件棒グラフ。当初予算と補正予算は、2017年度 576と146、2018年度 770と290、2019年度 1,178と2,580、2020年度 1,168と3,134、2021年度 1,025と456、2022年度 1,127と452、2023年度 1,138と3,179、2024年度 1,176と1,653、2025年度 1,969と4,380。2026年度の当初は5,027で、うち3,873がマルチモーダル基盤モデル事業。2027年度の概算要求は29,392で、ほかに事項要求26件
国の AI 関連予算の推移(億円・内閣府の集計)。当初予算は 2024 年度まで 1,200 億円未満で、2026 年度に 5,027 億円、2027 年度の要求は 2 兆 9,392 億円撮影・作図: 編集部

世界の大手と比べると、桁が 2 つ違う

米国の大手 4 社が 2026 年に見込む設備投資は、合わせて約 7,250 億〜7,450 億ドルです(Alphabet・Amazon・Meta・Microsoft の見通しの合計)。1 ドル 157 円で換算すると約 114 兆〜117 兆円で、日本の 2026 年度の AI 関連予算は、その約 230 分の 1(0.43〜0.44%)にあたります。換算のレートは、2026年10月23日の東京市場の 17 時時点のドル円相場(156.95〜156.97 円・日本銀行の公表)を丸めた値です。

各社の見通しと、確かめた資料は次のとおりです。

  • Alphabet: 1,950 億〜2,050 億ドル。2026年7月22日の決算説明会で示した値で、同社の IR サイトの書き起こしで確かめました
  • Amazon: 約 2,200 億ドル。2026年7月30日の決算説明会での発言を伝えた Fortune の報道の値です。同社の決算発表や四半期報告書には、通年の見通しが載っていません
  • Meta: 1,350 億〜1,450 億ドル(ファイナンスリースの元本の支払いを含む)。2026年10月21日の決算発表の値です
  • Microsoft: 約 1,750 億ドル(2026 年の暦年)。2026年7月29日の決算説明会で示した値で、同社の IR サイトの書き起こしで確かめました

比べ方には注意がいります。4 社の数字は世界全体の設備投資で、AI 以外のデータセンターや物流も含みます。日本の数字は国の予算だけで、Noetra に出資した 44 社や、GPU クラウドを整える民間の投資は入っていません。

グレーのマスが横28列で約230個並び、左上の緑の1マスが日本のAI関連予算(2026年度当初、約5,027億円)。緑を含めて約6マスが2027年度の要求2兆9,392億円。全体の約226〜233マスが、Alphabet・Amazon・Meta・Microsoftの2026年の設備投資の見通しの合計、約7,250億〜7,450億ドル(約114兆〜117兆円、1ドル157円で換算)。4社は世界全体の設備投資でAI以外も含み、日本は国の予算だけで民間の投資を含まない。各社の見通しはAlphabet 1,950億〜2,050億、Amazon 約2,200億、Meta 1,350億〜1,450億、Microsoft 約1,750億ドルで、Amazonは報道、ほかの3社は各社の決算資料によるグレーのマスが横28列で約230個並び、左上の緑の1マスが日本のAI関連予算(2026年度当初、約5,027億円)。緑を含めて約6マスが2027年度の要求2兆9,392億円。全体の約226〜233マスが、Alphabet・Amazon・Meta・Microsoftの2026年の設備投資の見通しの合計、約7,250億〜7,450億ドル(約114兆〜117兆円、1ドル157円で換算)。4社は世界全体の設備投資でAI以外も含み、日本は国の予算だけで民間の投資を含まない。各社の見通しはAlphabet 1,950億〜2,050億、Amazon 約2,200億、Meta 1,350億〜1,450億、Microsoft 約1,750億ドルで、Amazonは報道、ほかの3社は各社の決算資料による
米大手 4 社の 2026 年の設備投資の見通しを、日本の 2026 年度の AI 関連予算(約 5,027 億円)を 1 マスとして並べた図。全体は約 226〜233 マス撮影・作図: 編集部

海外の大手は、日本の中にも投資しています。AWS は 2024年1月、2027 年までに東京と大阪のクラウドに 2 兆 2,600 億円を投じると発表しました。Microsoft は 2026年4月、2026〜2029 年に 100 億ドル(同社の換算で約 1 兆 6,000 億円)を投じると発表しました。さくらインターネット・ソフトバンクと組んで、Azure から国内の GPU を使える形も検討するとしています。

桁の差は、政府も認めています。第Ⅰ期の計画(2025年12月23日)では、AI の開発と投資の「出遅れが年々顕著になっている」と認めたうえで、「投資規模では出遅れたが」「『信頼できるAI』で勝ち筋を見つける好機である」としました。国が最先端の汎用モデルの規模を正面から競うより、頼りきらないための選択肢づくりや、業界ごとの AI・フィジカル AI に狙いを絞っている背景には、この桁の差がある、と編集部はみています。

何を作らせているのか: GENIAC は「業界ごとのモデル」へ

GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)は、経済産業省と NEDO が 2024年2月に始めた事業です。中心は、基盤モデルの開発に使う計算資源の利用料などを補助することです。基盤モデルは、いろいろな用途の土台になる大きな AI のモデルを指します。開発者のコミュニティの運営もしています。

採択は、第1期の 10 件から、第2期 20 件、第3期 24 件、第4期 16 件と続きました。第1期は大規模言語モデルが中心で、目標は「開発力の底上げ・基礎的な開発能力の育成」でした。

支援の対象は、ゼロから作るモデルに限りません。第4期の公募が対象にした作り方は、次の 3 つです。

  • ゼロから学習する(フルスクラッチ)
  • 既存の基盤モデルに、追加で事前学習する(継続事前学習)。元のモデルは海外のものでもよい
  • 国内で開発されたモデルを、用途に合わせて調整する(ファインチューニング)

公開された成果の一覧を読むと、第2期・第3期は、Qwen・Llama・gpt-oss などの海外の公開モデルを元にしたものが多くを占めます。説明の欄に「フルスクラッチ」や「スクラッチ開発」とあるのは、第2期のストックマークの 1,000 億パラメーター(モデルの中の数値の数で、大きさの目安)のモデルなど一部で、第3期の一覧には見当たりません。

第1期 2024年2〜8月 10件、大規模言語モデルが中心で目標は開発力の底上げ。第2期 2024年10月〜2025年4月 20件、Qwen2.5を元にした日本語版やゼロから学習した1,000億パラメーターのモデル。第3期 2025年8月〜2026年3月 24件、gpt-oss・Qwen3を元にした金融向けやエージェント向けなど。第4期 2026年度・原則6か月 16件、応募50件、公募の区分は領域特化生成AI基盤モデルの開発。支援の対象はフルスクラッチ、海外を含む既存モデルへの継続事前学習、国内モデルのファインチューニング。汎用の大きなモデルはマルチモーダル基盤モデル開発事業(Noetra と産総研)へ。GENIACのサイトの事業名も領域特化モデル開発事業に変わった第1期 2024年2〜8月 10件、大規模言語モデルが中心で目標は開発力の底上げ。第2期 2024年10月〜2025年4月 20件、Qwen2.5を元にした日本語版やゼロから学習した1,000億パラメーターのモデル。第3期 2025年8月〜2026年3月 24件、gpt-oss・Qwen3を元にした金融向けやエージェント向けなど。第4期 2026年度・原則6か月 16件、応募50件、公募の区分は領域特化生成AI基盤モデルの開発。支援の対象はフルスクラッチ、海外を含む既存モデルへの継続事前学習、国内モデルのファインチューニング。汎用の大きなモデルはマルチモーダル基盤モデル開発事業(Noetra と産総研)へ。GENIACのサイトの事業名も領域特化モデル開発事業に変わった
GENIAC の 4 期の流れ。件数は計算資源の提供支援の採択数。第4期は公募の区分が「領域特化」になり、汎用の大きなモデルは別の事業に移った撮影・作図: 編集部

経済産業省と NEDO が 2026年6月4日に採択した第4期(応募 50 件)は、公募の区分が「領域特化生成AI基盤モデルの開発」でした。GENIAC のサイトでも、事業の名前が「領域特化モデル開発事業(旧名称: 生成AI基盤モデル開発事業)」に変わっています。テーマは、防犯の映像、自動車整備、金融のガードレール、災害の検知、外科手術、自動運転タクシー、創薬、建設などで、業界や用途を絞ったものが並びます。

Sakana AI と Preferred Networks(PFN)も、この 16 件に入っています。Sakana AI のテーマは「日本の制度・慣習・言語実務に適合したエージェント型基盤AIの開発」で、1 兆パラメーター級のモデルに国内で継続事前学習をする計画です。PFN のテーマは「現実世界の再現を目指す材料基盤モデルの研究開発」で、電池などの材料を原子のレベルで計算するためのモデルです。言語モデルではありません。

言葉と文書: Sakana AI(日本の制度・慣習・言語実務に合わせたエージェント型の基盤AI)、Sansan(文書に特化したVLM)、シェルパ・アンド・カンパニー(金融の非定型文書の解析と根拠の生成)、Elith(金融業務向けのAIガードレール FinGuard)。映像・空間・移動: アジラ(防犯の映像のVLM)、KDDI(ドローンの運用データを使うVLM)、newmo(自動運転タクシー)、ONESTRUCTION(建設BIM)。医療・科学: Epigenetic AI(老化を測るエピゲノムの生成AI)、Direava(外科手術の予測)、biomy(創薬向けVirtual Cell)、Preferred Networks(材料の基盤モデル、言語モデルではない)。現場と暮らし: ABEJA(自動車整備のAIエージェント)、Spectee(災害の検知に使うLLMとAIエージェント)、DubGuild(音声のモデル)、メルカリ(二次流通の検索・推薦)言葉と文書: Sakana AI(日本の制度・慣習・言語実務に合わせたエージェント型の基盤AI)、Sansan(文書に特化したVLM)、シェルパ・アンド・カンパニー(金融の非定型文書の解析と根拠の生成)、Elith(金融業務向けのAIガードレール FinGuard)。映像・空間・移動: アジラ(防犯の映像のVLM)、KDDI(ドローンの運用データを使うVLM)、newmo(自動運転タクシー)、ONESTRUCTION(建設BIM)。医療・科学: Epigenetic AI(老化を測るエピゲノムの生成AI)、Direava(外科手術の予測)、biomy(創薬向けVirtual Cell)、Preferred Networks(材料の基盤モデル、言語モデルではない)。現場と暮らし: ABEJA(自動車整備のAIエージェント)、Spectee(災害の検知に使うLLMとAIエージェント)、DubGuild(音声のモデル)、メルカリ(二次流通の検索・推薦)
GENIAC 第4期の 16 件を、編集部が 4 つの分野に分けた一覧。PFN のテーマは材料の基盤モデルで、言語モデルではない撮影・作図: 編集部

汎用の大きなモデルは誰が作るのか: Noetra と産総研の 5 年の事業

日本語に強い汎用の大きなモデルは、2026 年度から GENIAC とは別の事業が受け持ちます。NEDO は 2026年6月30日、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の実施先に、開発枠の Noetra と、探究枠の産総研を決めました(応募 15 件)。マルチモーダルは、文章に加えて画像・動画・音声も扱えることです。

期間は 2026〜2030 年度で、契約は 2026・2027 年度の分だけです。続けるかどうかは、毎年度のステージゲート審査で決めます。

Noetra は 2026年1月に設立され(当時の社名は日本AI基盤モデル開発)、7月16日に合計 44 社から出資を受けたと発表しました。中核はソニーグループ・ソフトバンク・NEC・本田技研工業で、参画企業には Sakana AI・PFN・富士通・三菱 UFJ 銀行なども並びます。計画では、2026 年度から日本語の理解と推論に強いモデルを順に作り、2028 年度に言語・画像・動画・音声をまとめて扱うモデル、2030 年度に物理の性質まで理解する「実世界ネイティブAI」を目指します。

できたモデルの重み(学習で決まった数値の集まり。これがあれば自社のサーバーでモデルを動かせる)は、だれにでも配るわけではありません。NEDO の資料には、重みを事業の期間中から国内に公開する、とあります。ただし、プロジェクトのサイトによると、提供先は条件を満たす事業者に限る「ウェイト・アベイラブル」とする方針で、国の事業で作ることと、日本固有のデータを含むことを理由に挙げています。条件の中身は、10月25日の時点ではサイトに載っていません。

できたモデルは誰が使うのか: 最初の大口の買い手は政府

源内(げんない)は、デジタル庁が作った政府職員向けの生成 AI の環境です。2025年5月にデジタル庁の職員が使い始め、2026年5月から 2027年3月まで、全府省庁の約 18 万人を対象に大規模実証をしています。2027 年度に本格的な利用を始める予定です。

2026年7月の時点で職員が選べるモデルは、AWS の Nova Lite と、Anthropic の Claude Haiku 4.5・Sonnet 4.6・Opus 4.8 の 4 つです。国産では、PFN の「PLaMo 翻訳」を 2025年12月から提供しています。

デジタル庁は 2025年12月、源内で試す国産の LLM を公募しました。15 件の応募から 2026年3月6日に 7 件を選び、その後 2 社が辞退したため、5 社と契約しています。NTT データの tsuzumi 2、ソフトバンクの Sarashina3 mini、NEC の cotomi v3、富士通の Takane 32B、PFN の PLaMo 2.0 Prime です。

選ぶ条件は、ガバメントクラウド(政府が共通で使うクラウド)の上で動くこと、デジタル庁がその場で初めて示す 50 問の評価テストで成績がよいこと、2026 年度は無償で試せること、などでした。ゼロから作ることは条件ではなく、「独自開発モデルか派生モデルかの区別等が具体的に説明可能であること」が求められています。7 件の中には、KDDI と ELYZA の Llama-3.1-ELYZA-JP-70B も入っていました。Meta の Llama 3.1 を元にしたモデルです(契約した 5 社の一覧には入っていません)。

デジタル庁は 2026年7月、5 社のうち tsuzumi 2・Takane 32B・PLaMo 2.0 Prime の 3 つを、さくらインターネットの「さくらのクラウド」で動かすと発表しました。さくらのクラウドはガバメントクラウドで唯一の国産クラウドで、政府がガバメントクラウドとして実際に使うのは、この件が初めてです。計画では、8 月までに実験の環境を作り、9〜11 月に、源内のチャットで既存のモデルと答えを並べる A/B テスト(名前を伏せて、利用者に好みを選んでもらう比べ方)を何度か行います。10月25日の時点で、途中経過は公表されていません。

応募15件(2026年1月31日まで)、選定7件(2026年3月6日)、契約5社(2026年5月29日に公表、2社が辞退)、さくらのクラウドで稼働3つ(2026年7月に発表)。源内のチャット・AIアプリの下に、ガバメントクラウド(AWSなど)で職員が選べる Nova Lite・Claude Haiku 4.5・Claude Sonnet 4.6・Claude Opus 4.8 と、ガバメントクラウド(さくらのクラウド)で試用する tsuzumi 2・Takane 32B・PLaMo 2.0 Prime。国産は名前を伏せて好みを選ぶA/Bテストで比べる。契約した5社の一覧と、cotomi v3 と Sarashina3 mini を動かすクラウドは公式の資料で確認できなかったことの注記応募15件(2026年1月31日まで)、選定7件(2026年3月6日)、契約5社(2026年5月29日に公表、2社が辞退)、さくらのクラウドで稼働3つ(2026年7月に発表)。源内のチャット・AIアプリの下に、ガバメントクラウド(AWSなど)で職員が選べる Nova Lite・Claude Haiku 4.5・Claude Sonnet 4.6・Claude Opus 4.8 と、ガバメントクラウド(さくらのクラウド)で試用する tsuzumi 2・Takane 32B・PLaMo 2.0 Prime。国産は名前を伏せて好みを選ぶA/Bテストで比べる。契約した5社の一覧と、cotomi v3 と Sarashina3 mini を動かすクラウドは公式の資料で確認できなかったことの注記
源内で試す国産モデルの絞り込みと、源内の中での並び方。海外の 4 モデルと、さくらのクラウドで動く国産 3 モデルが並ぶ撮影・作図: 編集部

この試用の先で、お金が動きます。デジタル庁は 2027 年度に源内で使う国産のモデルを有償で調達する予定で、2026年11月に公募を始め、2027年4月に使い始める日程を示しています。今年度の 5 社以外も応募でき、5 社の評価の結果も考慮されます。

評価テストは 300 問・35 観点・8 領域(一般常識、時事、日本語、安全性、法律と制度、行政課題、日本の価値観と歴史観、国際関係と外交)で、上限は 15 時間です。応募書類には、ツール使用(AI が API・ファイル・データベース・Web 検索などを呼び出すしくみ)の説明や、ライセンスと料金体系も入ります。

2026年8月まで: さくらのクラウドに3モデルの実験環境を作る。9〜11月: 源内のチャットでA/Bテストを複数回。10月25日(いま): 途中経過の公表はまだない、評価テストの方法は5月に予告済み。11月: 公募を開始(新しい会社も応募できる、1社1モデル)。12月: 締切・書類審査。2027年1月: 評価・検証の結果(一部)を公表、評価テスト(300問・35観点・8領域、上限15時間)と調達の公告。2月: 結果の通知・入札。3月: 落札者を決めて準備。4月: 源内で使い始める2026年8月まで: さくらのクラウドに3モデルの実験環境を作る。9〜11月: 源内のチャットでA/Bテストを複数回。10月25日(いま): 途中経過の公表はまだない、評価テストの方法は5月に予告済み。11月: 公募を開始(新しい会社も応募できる、1社1モデル)。12月: 締切・書類審査。2027年1月: 評価・検証の結果(一部)を公表、評価テスト(300問・35観点・8領域、上限15時間)と調達の公告。2月: 結果の通知・入札。3月: 落札者を決めて準備。4月: 源内で使い始める
2027年4月の有償調達までの日程。左は今年度の 5 社の試用、右は来年度に向けた調達。10月25日時点の予定撮影・作図: 編集部

計算機はどこにあるのか: ABCI 3.0 と民間の GPU クラウド

モデルを作るには、GPU(AI の計算に使う半導体)を大量に積んだ計算機がいります。国の計算機の中心は、産総研の ABCI 3.0 です。2025年1月に動き始め、NVIDIA H200 を 6,128 基載せています。

ただ、だれでも使えるわけではありません。ABCI 3.0 は、国研・大学・スタートアップなどの公的な利用を中心に計算資源を割り当てています。ABCI のページには、公的機関でない法人や東京圏の法人は、使えないか、使えても十分な計算資源を確保できない事態が予想される、とあります。2026 年度は、提供できる計算資源に比べて、使われていないポイントが多くなったため、ポイントの追加発行と新しい利用グループの申請を、10月30日 17時で締め切ると告知しました。

ABCI が代わりに案内しているのが、民間の GPU クラウドです。経済産業省は経済安全保障推進法にもとづき、2023年6月から 2024年5月にかけて、GPU クラウドの 9 件に最大で計約 1,278 億円の助成を認めました(一覧の額を編集部が足した値)。ABCI によると、これらの整備規模は「ABCI 3.0 より一桁大きい規模に達します」。

ABCI 3.0(産総研): NVIDIA H200 6,128基、半精度で6.2 AI-EFLOPS、2025年1月から。国研・大学・スタートアップなどの公的な利用が中心で、公的機関でない法人や東京圏の法人は使えないか十分に確保できないことがある。2026年度はポイントの追加発行と新しい利用グループの申請を10月30日17時で終了。GPUクラウドへの助成の最大額(億円): さくらインターネット 約569(2023年 約68と2024年 約501)、ソフトバンク 約474(2023年 約53と2024年 約421)、KDDI 約102.4、ハイレゾ・ハイレゾ香川 約77.0、RUTILEA・AI福島 約25.6、GMOインターネットグループ 約19.3、ゼウレカ 約11。9件の合計 約1,278億円。この先、さくらは約1万基を2028年3月末までに、NoetraはRubin GPU約2万7,500基を2028年6月から動かす予定ABCI 3.0(産総研): NVIDIA H200 6,128基、半精度で6.2 AI-EFLOPS、2025年1月から。国研・大学・スタートアップなどの公的な利用が中心で、公的機関でない法人や東京圏の法人は使えないか十分に確保できないことがある。2026年度はポイントの追加発行と新しい利用グループの申請を10月30日17時で終了。GPUクラウドへの助成の最大額(億円): さくらインターネット 約569(2023年 約68と2024年 約501)、ソフトバンク 約474(2023年 約53と2024年 約421)、KDDI 約102.4、ハイレゾ・ハイレゾ香川 約77.0、RUTILEA・AI福島 約25.6、GMOインターネットグループ 約19.3、ゼウレカ 約11。9件の合計 約1,278億円。この先、さくらは約1万基を2028年3月末までに、NoetraはRubin GPU約2万7,500基を2028年6月から動かす予定
計算機は ABCI 3.0 と、助成を受けた民間の GPU クラウドの 2 本立て。助成の最大額は 9 件で計約 1,278 億円撮影・作図: 編集部

計算機は、この先も増える予定です。さくらインターネットは約 1 万基の GPU を 2028年3月末までに整える計画で、Noetra は NVIDIA の Rubin GPU 約 2 万 7,500 基を載せた計算基盤を、2028年6月から動かす予定です。GPU の世代が違うので、基数だけでは性能を比べられません。

2023 年からの動き: 「作る支援」から「買う準備」へ

ここまでの動きを年表に並べると、国の重心の移り方が見えます。2023〜2024 年は、GPU クラウドへの助成と GENIAC で、作る側を支えました。2025 年は AI 法と第Ⅰ期の計画で方針を固め、2026 年は源内での試用と有償調達の予告で、国自身が買い手になる準備に入っています。

2023年6月 さくらインターネットにGPUクラウドの助成(2024年5月までに計9件)。2024年2月 GENIAC開始(第1期10件)。2024年10月 第2期20件。2025年1月 ABCI 3.0の運用開始。5月 デジタル庁の職員が源内を使い始める、AI法が成立。7月 GENIAC第3期24件。9月 AI法を全面施行。12月 源内で試す国産LLMを公募、AI基本計画(第Ⅰ期)。2026年3月 国産LLM 7件を選定。5月 約18万人の大規模実証を開始、5社との契約を公表。6月 GENIAC第4期16件(領域特化)、マルチモーダル基盤モデル事業にNoetraと産総研。7月 AI基本計画(第Ⅱ期)、さくらのクラウドで国産3モデルを試すと発表。10月 ABCIが今年度のポイント追加と新規申請の終了を告知。予定: 11月 2027年度向けの公募、2027年1月 評価・検証の結果(一部)を公表、2027年4月 有償で調達した国産モデルを源内で使い始める、2028年6月 Noetraの計算基盤が動き出す2023年6月 さくらインターネットにGPUクラウドの助成(2024年5月までに計9件)。2024年2月 GENIAC開始(第1期10件)。2024年10月 第2期20件。2025年1月 ABCI 3.0の運用開始。5月 デジタル庁の職員が源内を使い始める、AI法が成立。7月 GENIAC第3期24件。9月 AI法を全面施行。12月 源内で試す国産LLMを公募、AI基本計画(第Ⅰ期)。2026年3月 国産LLM 7件を選定。5月 約18万人の大規模実証を開始、5社との契約を公表。6月 GENIAC第4期16件(領域特化)、マルチモーダル基盤モデル事業にNoetraと産総研。7月 AI基本計画(第Ⅱ期)、さくらのクラウドで国産3モデルを試すと発表。10月 ABCIが今年度のポイント追加と新規申請の終了を告知。予定: 11月 2027年度向けの公募、2027年1月 評価・検証の結果(一部)を公表、2027年4月 有償で調達した国産モデルを源内で使い始める、2028年6月 Noetraの計算基盤が動き出す
2023〜2028 年の国の動きを、作らせる・計算機・買って使う・方針の 4 つの役で並べた年表。灰色の日付は予定撮影・作図: 編集部

自分の会社に関係あるのか: 立場ごとに見る時期が違う

国の事業に直接応募しない会社にも、読み取れることはあります。公式に示された予定と、編集部の見方を分けて書きます。

官公庁や自治体の仕事をしている会社は、2026年11月に始まる公募の要件を見てください。ガバメントクラウドで動くこと、ツール使用の説明、提供条件と料金体系など、国産モデルに求められる条件が具体的に示されます。編集部の見方では、こうした条件に合わせた形が、各社の民間向けの商品にも広がっていきそうです。

社内の機密を扱う AI を探している会社には、2027年1月ごろに公表される評価・検証の結果(一部)が材料になります。今年度に源内で試している国産 5 モデルの結果です。この 5 つは第三者が公開する評価の表にほとんど載っておらず、性能の数字は各社の自社評価が中心なので、比べる手がかりが増えます。

源内に入るには、ガバメントクラウドの上で動くことが条件です。この条件に合わせて、閉域(インターネットから切り離したネットワーク)や国内のクラウドで動かせる国産モデルの選択肢は増えていく、と編集部は見立てています。構成の考え方は第4回の機密を扱う生成 AI の構成で、いまできる方法はそれでも機密を AI で扱いたいときの方法で取り上げています。

自社の業界向けのモデルを作りたい会社は、GENIAC の公募と民間の GPU クラウドが入口です。GENIAC が補助するのは領域特化のモデルで、ABCI 3.0 は公的な利用が中心です。Noetra のモデルの重みも条件つきで国内に提供される予定なので、条件が公表されれば、自社のモデルの土台の候補が増えます。

どの立場でも、「国産」の中身は先に聞いておくと安心です。デジタル庁の選定の基準は「国内で開発」と「独自か派生かを説明できること」で、ゼロから作ることは求めていません。調達や比較のときは、ゼロから学習したのか、どの公開モデルを元にしたのか、重みを自社に置けるのかを聞くと、違いが見えてきます。作り方の型は第1回で整理しました。

官公庁・自治体の仕事をしている: 2026年11月のデジタル庁の2027年度向けの公募の要件。国産モデルに求められる条件(ガバメントクラウドで動く・ツール使用・料金体系の提示)が具体的に見える。社内の機密を扱うAIを探している: 2027年1月ごろの源内での評価・検証の結果(一部)。国産5モデルを源内で試した結果が初めて公表され、閉域や国内のクラウドで動かせる候補を絞る材料になる。自社の業界向けのモデルを作りたい: NEDOのGENIACの公募と民間のGPUクラウドの料金。計算資源の補助は領域特化が対象で、ABCI 3.0は公的な利用が中心。まず様子を見たい: AI基本計画の改定と毎年度の予算の要求。2027年度の要求はマルチモーダル基盤モデル(約8,964億円)とAI for Science(約3,789億円)が大きい。どの立場でも、国産の中身(ゼロから学習か、どの公開モデルが元か)を確かめる官公庁・自治体の仕事をしている: 2026年11月のデジタル庁の2027年度向けの公募の要件。国産モデルに求められる条件(ガバメントクラウドで動く・ツール使用・料金体系の提示)が具体的に見える。社内の機密を扱うAIを探している: 2027年1月ごろの源内での評価・検証の結果(一部)。国産5モデルを源内で試した結果が初めて公表され、閉域や国内のクラウドで動かせる候補を絞る材料になる。自社の業界向けのモデルを作りたい: NEDOのGENIACの公募と民間のGPUクラウドの料金。計算資源の補助は領域特化が対象で、ABCI 3.0は公的な利用が中心。まず様子を見たい: AI基本計画の改定と毎年度の予算の要求。2027年度の要求はマルチモーダル基盤モデル(約8,964億円)とAI for Science(約3,789億円)が大きい。どの立場でも、国産の中身(ゼロから学習か、どの公開モデルが元か)を確かめる
自社の立場ごとに、いつ・何を見るかの目安。右の列には編集部の見方を含む撮影・作図: 編集部

個人情報や社外秘を AI に入れてよいかの判断は、個人情報や機密を AI に貼るのは、本当にダメ?にまとめています。国産かどうかより先に、何を入れてよいかを決めておくと、モデルを選ぶ話も進めやすくなります。

次の節目は、11 月の公募と 1 月の公表

国の動きで次に見えるのは、2026年11月に始まる公募の要件と、2027年1月ごろの評価・検証の結果(一部)です。どちらもデジタル庁のサイトに載る予定です。公共の仕事に関わるなら公募の要件を、社内で使うモデルを選ぶなら評価の結果を読んでおくと、2027年4月に政府が何を買ったのかを、自社の判断に生かせます。外に送らずに国産の公開モデルで社内の窓口を作れるかは、第5回で試しました。

次の回は、金融機関の 9 割強が生成 AI を使いながら、答えを顧客に直接見せる先がまだ少ない理由を、日本銀行と金融庁の資料で読み解きます(第3回)。

参考にした公式の情報

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執筆者

佐々木 航@w_sasaki

with Claude Code

プロフィール

株式会社Game 代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。

この記事は、Claude Code を使って執筆しました。画面の画像は、検証環境で実際に操作して撮影したものです(引用の画像は出典を記載しています)。内容の誤りはお問い合わせからお知らせください。