連載・実録AIのAPIキーが盗まれた日#4/ 全5回一台の穴が全台の合鍵に。封じ込めと鍵の打ち直し

この記事でわかること
- 攻撃を止め、証拠を残すまでの作業の順番
- 一台の穴が全台に届いた 2 つの道
- 鍵を全部替える理由と、確かめたこと
確認した環境: 2026年10月14〜15日の対応の記録 / OWASP・IPA の公開資料は 2026年10月15日、GitHub の告知は 2026年10月16日に確認
連載「AIのAPIキーが盗まれた日」の第 4 回です。前の回: 第 3 回 入口はバックアップの管理画面だった。次の回: 第 5 回 被害が小さかった3つの理由と、AIのAPIキーを守るチェックリスト。最初から読む場合は第 1 回です。
入口は、全台の控えを集める台の管理画面でした(第 3 回)。では、この台から他のサーバーへ、実際にどこまで届くのでしょうか。確かめると、届きました。控えの中の合鍵などを通って、ほかのサーバーに入れる状態でした。この回では、止める作業、届くかの確認、鍵の打ち直しを、確かめたことと一緒に説明します。あわせて、「なぜ」そうしたのかも書きます。

作業は Claude Code が、編集長の指示と承認を得ながら進めました。時刻は日本時間です。
この回の早見

見るだけの監査から、止める作業へ
それまでの作業は、読み取りだけの監査でした。ここから、止める作業に切り替えました。どの操作も、実行の前に編集長の承認を得ています。

- 攻撃を止める: 11:45 に、2 回目の攻撃の処理を止めました。管理画面のサービスも止めました。
- 外への通信を断つ: 受け取り口への外向きの通信を遮断しました。盗んだ物を、これ以上送らせないためです。
- 証拠を残す: 証拠一式を別の場所へ退避し、手元にも控えました。
- 残りの全台を確認する: 同じスクリプトも、同じ外部接続も、どこにもありませんでした。
- 同じ欠陥の可能性に備える: 同じ欠陥の可能性がある台には、遮断と更新の対応をとりました。欠陥の内容は第 3 回に書きました。
なぜ、止めたらすぐ証拠を残すのか
止めただけでは、何が起きたかが分からなくなるからです。電源を切るなどの操作で、残っていた記録は消えます。IPA の手引きも、不用意な操作で記録を消さないように書いています。記録がなければ、何が外へ出たのか、入口はどこだったのかを、あとから確かめられません。編集部は、止めたあと、消える前に証拠を別の場所へ残しました。
この台から他へ、どこまで届くか
調査を担当した AI の記録には、「ここで、もっと嫌な事実に気づく」とあります。この台は、ただの一台ではありません。全サーバーの控えを持ち、ほかのサーバーに入るための権限も持っていました。そこで、「この台から他の台へ、実際にどこまで届くか」を、承認のもとで確かめました。
結果は、届きました。道は 2 つです。

道 1: この台の権限
この台は、ほかのサーバーに入るための権限を持っていました。その権限は、まだ生きていました。つまり、この台を乗っ取った人は、ほかのサーバーにも入れる状態でした。
道 2: 控えの中の合鍵
全台の控えの中には、ほかのサーバーに入るための鍵がありました。控えを開ければ、合鍵が手に入ります。
そして、その控えを開く鍵も、一緒に漏れていました。

調査を担当した AI の記録には、「合鍵がバックアップの中にあり、そのバックアップを開ける鍵も一緒に漏れている、という最悪の循環」とあります。一台の穴が、理論上は、管理している全台の合鍵につながっていました。
合鍵を打ち直した
届くと分かったので、合鍵を打ち直しました。やったことと、確かめたことを書きます。

- この台の権限を、すべて取り消しました。 この台の鍵では、もうどこにも入れないことを、実際に確かめました。
- 関係する鍵と証明書を、すべて作り直しました。 古いものでは入れず、新しいものは通ることを、確かめました。
- 控えを開く鍵も、替えました。 古い鍵では、もう開かないことを確かめました。
控えの本体が持ち出された形跡は、確かめた範囲では見つかりませんでした。
OWASP(ウェブの安全に取り組む国際的な団体)の資料も、漏れた、または漏れたかもしれない秘密は、失効させて使えなくすることを求めています。
なぜ、全部の鍵を替えるのか
持ち出された形跡が見つからなくても、全部替えました。「見つからなかった」ことと「無かった」ことは、別だからです。どの鍵が見られたかを、あとから完全には言い切れません。見られたかもしれない鍵を、ひとつずつ見分けて残すより、全部を使えなくするほうが確実です。
守りが自分に噛みついた
作業の途中には、小さな落とし穴もありました。守りの仕組みが、作業中の自分を攻撃者と見て、締め出したのです。
調査を担当した AI の記録には、「守りを固めると、守りが自分に噛みつく」とあります。守りを変える作業のときは、自分の作業も止められることを、前提にしておく必要があります。
学び: 合鍵と、それを開ける鍵は別の場所に

OWASP の資料には、鍵は、その鍵で守っている秘密のそばに置かない、という考え方があります(鍵自体が暗号化されている場合は別です)。今回は、合鍵が控えの中にあり、控えを開く鍵も一緒に漏れました。ひとつ漏れると、全部が開く形です。
この形は、次の 3 点で崩せます。
- 控えの中に、全体を開ける合鍵を置かない。
- 控えを開く鍵を、控えと同じ所に置かない。
- 漏れたかもしれない鍵は、使われる前に失効して、新しい鍵に替える。
具体的な手順は第 5 回でチェックリストにします。
考察: 被害が小さかったことの意味
確かめたことと、編集部の推測を分けて書きます。
- 確かめたこと: 2 つの道は、実際に届く状態でした。一方で、第 3 回のとおり、居座りや横展開は、確かめた範囲では始まっていませんでした。
- 推測(確かめていません): 届く状態にあったことと、届かれたことは別です。今回は、後者が起きる前に止められたと考えられます。ただし、止められたのは攻撃の途中だったからです。守りが十分だったからとは言えません。
- 一般化: 全体を支える台に「全体の鍵」が集まると、一台の穴が、全体の穴になります。侵入の跡が無くても、鍵が読める所にあれば、守れたことにはなりません。
回想: 漏れた鍵を、発行元が止める仕組み
この分野では、漏れた鍵への備えが変わってきました。2021年6月8日の GitHub の告知では、OpenAI などが、GitHub の秘密のスキャンの連携先に加わりました。GitHub は、見つけた鍵を発行元のサービスへ転送します。発行元は、その鍵を自動で無効にして、持ち主に知らせます。2018年から数えて、36 の発行元と協力してきた、とも書かれています。漏れた鍵を、持ち主が気づく前に、発行元が止める流れです。
ただし、この仕組みが見るのは GitHub に置かれた鍵です。今回のように、自社の台から漏れた鍵には届きません。自分で替える備えが、いまも要ります。
今日できること
- 控えや設定ファイルの中に、ほかの場所に入るための鍵が入っていないかを調べます。
- 控えを開く鍵が、控えと同じ所にないかを調べます。
- 鍵を全部替える手順を、紙 1 枚に書いておきます。だれが、どの順で替え、何で確かめるか、です。「古い鍵で入れないこと」を確かめるところまで書きます。
この回で分かったこと
- 止める作業は、攻撃を止める、外への通信を断つ、証拠を残す、の順で進めました。
- 一台の穴は、この台の権限と、控えの中の合鍵の 2 つの道で、全台に届きました。
- 控えを開く鍵も一緒に漏れていたため、合鍵は理論上、取り出せる状態でした。
- この台の権限を取り消し、関係する鍵と証明書を作り直し、控えを開く鍵も替えました。古い鍵で入れないことを確かめました。
読み手へのひとこと
「侵入の跡がない」ことは、安心の理由になりません。まず、自分の控えの中に、全体を開ける鍵が入っていないかを見てください。見つかったら、その鍵を替えるところから始められます。小さな会社でも、今日の 30 分でできる確認です。
次の回
実害が小さく済んだのは、なぜでしょうか。第 5 回 被害が小さかった3つの理由と、AIのAPIキーを守るチェックリストで、3 つの理由と、明日からできることを整理します。
参考にした公式の情報

執筆者
株式会社Game 代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。
この記事は、Claude Code を使って執筆しました。画面の画像は、検証環境で実際に操作して撮影したものです(引用の画像は出典を記載しています)。内容の誤りはお問い合わせからお知らせください。
