連載・実録AIのAPIキーが盗まれた日#5/ 全5回被害が小さかった3つの理由と、AIのAPIキーを守るチェックリスト

この記事でわかること
- 被害が小さかった 3 つの理由
- 公式の案内で確かめた、明日からのチェックリスト
- 始めやすい順番と、漏れたときの 5 つの順番
確認した環境: 2026年10月14〜15日の対応の記録 / OpenAI・Anthropic・Google の公式の案内、GitHub Docs、IPA の資料は 2026年10月15日、GitHub の告知は 2026年10月16日に確認
連載の第 5 回(最終回)です。前の回は 第 4 回 一台の穴が全台の合鍵に。封じ込めと鍵の打ち直しです。

AI の API キーが 680 行も流出したのに、被害が小さく済んだのはなぜか。この回では、その 3 つの理由と、読み手が明日からできるチェックリストを書きます。チェックリストは、OpenAI・Anthropic・Google の公式の案内、GitHub Docs、IPA(情報処理推進機構)の資料で、2026年10月15日に確かめた内容だけです。編集部の判断で足した項目には、そう書いています。確かめられなかったことは、そのとおり書きます。
なぜ、この回を書くのか。「うちは小さい会社だから、狙われない」「入られた跡がないから、大丈夫」と思っている人に、キーは入られなくても外で使われる、と伝えたいからです。迷ったときに、何から手を付けるかが決められるように、始めやすい順番も示します。

この連載は、編集部が管理しているサーバーで 2026年10月14日から15日に起きた出来事の記録です。調査と封じ込めは Claude Code(AI がパソコンやサーバーの作業を手伝う道具)が、編集長の指示と承認のもとで手伝いました。守りの仕組みの名前や台数など、守りに関わることは書いていません。
被害が小さかった 3 つの理由
ここまでの流れは、前の回で書いています。AI のキーが外の転売の仕組みで使われていたこと(第 2 回)、入口は全台の控えを集める台の管理画面だったこと(第 3 回)です。ここでは数字だけを並べます。
- 集められた AI キーの行は 680 でした。実在のキーとして分類できたのは約 290 本です。
- 提供元の利用の記録で、悪用が確かめられたのは 8 本です。約 580 回、入力 100 万・出力 36 万トークンが使われました。
- 確かめられた被害額は、約 11 ドルでした。

1 大半のキーは、すでに失効していた
流出した束には、過去に作り替えたときに無効にした古いキーが多く入っていました。外の仕組みは、集めたキーに最初の生存確認を送ります。そこで弾かれたキーは、使えません。
2 動いていたキーは、直後に失効した
本番の悪用は 03:12 に始まり、こちらは 03:22 にキーの失効を始めました。外の仕組みは、そこで空回りになりました。確かめたのは提供元の利用の記録の範囲です。ほかの場所での使われ方まで調べ切ったとは言えません。
3 刃が抜かれる前に止まっていた
2 回目の攻撃は、封じ込めた時点で、まだ秘密を集めている段階でした。採掘、居座り用のユーザー pakchoi の作成、ほかの台への横展開は、確かめた範囲では始まっていませんでした。2 回目に外へ送られた物の中に、秘密鍵は含まれていませんでした。
調査を担当した AI の記録には、「『大量流出』は起きたが、『大量被害』には至らなかった」とあります。ただし理由 3 は、運が大きく働きました。理由 1 は日頃の習慣、理由 2 は検知と手の速さです。編集部は、運に頼れない 1 と 2 を、この回の中心に置きます。
調査を担当した AI の記録には、「叩かれていた鍵は、ほんのひと握りだった」とあり、そのあとに、胸をなで下ろした、という一文が続きます。
考察: 被害が小さかったことの意味
確かめたことと、編集部の推測を分けます。
- 確かめたこと: 流出した行は 680、悪用が確かめられたのは 8 本、被害額は約 11 ドルでした。失効が早かったことが、数字に出ています。
- 推測(確かめていません): 古いキーを無効にしていなければ、悪用された本数はもっと多かったと考えられます。失効の習慣が、今回は被害額を直接小さくした可能性があります。
- 一般化: 流出そのものは、防ぎ切れないことがあります。防げないなら、流出した時点で価値を失っている状態、つまり「使えない鍵」にしておくのが現実的です。
「侵入なき流出」はどう起きたか
最初の調査では、外から各サーバーに入られた跡は見つかりませんでした。それでも、キーは外で使われました。

- 平文で散らばった鍵: 掲示板の投稿の本文、コードのサンプル、会話の記録などに、キーがそのまま書かれていました。
- 秘密を一か所に集める台: 全台の控えを持つ台の管理画面が、認証の手前で破られました。散らばった鍵は、そこで一度に拾われました。
調査を担当した AI の記録には、「侵入の痕跡が『なかった』ことが、安心の理由にならなかった」とあります。ログインの履歴を見て「入られていない」と分かっても、鍵が読める場所にあれば、守れたことにはなりません。
明日からやること: チェックリスト
項目ごとに、やることと「なぜ」を書きます。「なぜ」は、今回の出来事のどこに効いた(効いたはずの)項目かです。
A キーを散らかさない・分ける

- A1 コードに書かない。 OpenAI の公式の案内は、キーをコードや公開のリポジトリに置かず、環境変数か秘密の管理サービスで渡すように書いています。なぜ: 今回は、平文で散らばったキーがまとめて拾われました。
- A2 利用者の端末に置かない。 Gemini API の公式の案内は、Web やモバイルのアプリにキーを入れると、利用者が取り出せるため、自分のサーバーを間に置くように書いています。同じページに「Never expose keys client-side in production」とあります。なぜ: 読める場所にあるキーは、読めるだけで盗めます。
- A3 用途ごとに分ける。 OpenAI はプロジェクトごとに、レートと支出の上限を設定できます。Anthropic は、キーがワークスペースに属し、ワークスペースごとに上限を付けられます。なぜ: 悪用されたのは 8 本でした。分けてあれば、止める範囲も、影響を確かめる範囲も、小さくなります。
- A4 期限を付けて入れ替える。 OpenAI は、プロジェクトのキーを作るときに有効期限を付けることと、定期的な入れ替えを強く勧めています。手順は、新しいキーを作り、アプリを切り替え、動くのを確かめてから古いキーを失効させます。Google Cloud も、新しいキーを作って切り替えてから、古いキーを削除する入れ替えを案内しています。なぜ: 今回、被害を小さくした最大の物は、すでに失効していた古いキーでした。
B 上限・通知・キーの制限

- B1 上限と通知を、別々に設定する。 OpenAI の公式の案内には、2 種類あります。金額を超えたら知らせる「spend alerts」と、月の上限で通信を止める「hard spend limit」です。hard spend limit は、上限に達すると対象の API の通信を止めます。有効にする前に、公式の spend limits のガイドを読むように書かれています。Anthropic は、Claude Console の Billing ページの「Spend limits」で、段階ごとの月の上限より低い金額を、自分で設定できます。上限に達すると、リクエストはエラーになります。
- B2 Google Cloud の予算は、止まらない。 Google Cloud の公式の案内は、アラートだけの予算は利用を自動では止めない、と書いています。初期のしきい値は、予算額の 50%・90%・100% です。一部のサービスには、上限に達すると止まる spend cap の予算もある、と書かれています。
- B3 キーの使い道を絞る。 Google Cloud の公式の案内は、API の制限と、アプリケーションの制限(Web サイトのリファラー、IP アドレス、Android アプリ、iOS アプリ)を両方付けるように書き、「制限のないキーは安全でない」とあります。ただし Android と iOS の制限は、回避されやすいとも書かれています。Gemini だけに使うキーは、Google AI Studio の API Keys のページで「Restrict to Gemini API only」を選べます。なぜ: 今回のキーは、社内ではなく外の仕組みから使われました。Google のキーには、使える IP を限る設定があります。ただし悪用が確かめられたのは OpenAI のキーで、同じ制限があるかは編集部は確かめていません。
- 確かめられなかったこと: Anthropic の公式の案内で、金額を超えたときに知らせる通知の設定は、編集部は確かめられませんでした。Console の Usage ページで、利用量のグラフを見られることは確かめています。
なぜ(B 全体): 今回は、提供元の利用の記録を見て、悪用に気づきました。通知を付けていれば、記録を見に行く前に、知らせが届く場合があります。
C 置き場所と更新

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C1 GitHub の秘密のスキャンと、プッシュの保護を使う。 GitHub の secret scanning は、リポジトリに書かれた API キーやパスワードを検出します。公開のリポジトリでは無料で動きます。組織の非公開のリポジトリでは、GitHub Secret Protection(GitHub Team か GitHub Enterprise Cloud)が要ります。push protection は、検出した秘密を含む push を、リポジトリに届く前に止めます。個人のアカウントの「push protection for users」は、公開のリポジトリに対して既定で有効です。なぜ: コードのサンプルに平文のキーが置かれていました。同じ型を、手前で止められます。
回想: GitHub の公式の告知によると、push protection は 2023年8月から、利用者が任意で有効にできました。2024年2月29日には、公開リポジトリへのすべての push で、既定で有効になりました。同じ告知は、2024年の最初の 8 週間だけで、公開リポジトリ上の漏れた秘密を 100 万件以上検出した、と書いています。数年のうちに、秘密を上げる前に止める備えが、既定の設定になりました。
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C2 控えの鍵を、控えの中に置かない。 これは公式の案内ではなく、編集部の対応から出た項目です。今回は、控えを開ける鍵と控えの中身が、同じ台から一緒に出ました(詳しくは第 4 回)。控えを開ける鍵は、別の場所で守ります。
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C3 管理画面を、公開しない。 IPA の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第 4.0 版(2026年3月27日公開)は、自社診断の項目に、外部からの不要な通信の遮断を加えました。なぜ: 今回の入口は、認証の手前で破られた管理画面でした。外から開けない場所にあれば、届きにくくなります。
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C4 更新して、公式の告知を見る。 IPA の「情報セキュリティ6か条」の 1 つ目は「OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう!」、6 つ目は「脅威や攻撃の手口を知ろう!」です。フレームワークは、使っている物の公式の告知を、自分で見に行きます。たとえば Next.js のブログには、セキュリティの告知が載っています。なぜ: 今回の入口は、更新を当てる前の版でした。どの欠陥かは、第 3 回で説明しています。
まず何から始めるか: 始めやすい順番
全部を一度にやる必要はありません。かかる時間で、3 つに分けます。
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まず 1 時間でできること
- いま使っている AI のキーを、一覧にします(どのサービスの、何のためのキーか、どこに書かれているか)。
- 使っていないキーを、失効します(A4)。
- 利用の上限と、金額の通知を付けます(B1)。付けられる設定は、サービスによって違います。
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1 週間でやること
- キーを用途ごとに分けます(A3)。コードや端末に、キーが書かれていないかを探します(A1・A2)。
- GitHub の secret scanning と push protection を有効にします(C1)。
- 使っているフレームワークの、公式のセキュリティの告知を見る習慣を付けます(C4)。
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1 か月でやること
- 控えを開く鍵が、控えと同じ所にないかを点検します(C2)。管理画面が、外から開けないかも確かめます(C3)。
- キーを入れ替える手順を、紙 1 枚に書き、一度試します(A4)。
どこから迷う場合も、最初の 1 時間の 3 つだけで構いません。今回いちばん効いたのは、使えなくなったキーと、速い失効でした。
漏れたと分かったときの順番

- 止める。 悪用されているキーを、先に無効にします。GitHub Docs は、漏れた秘密は侵害されたものとして扱い、失効するように書いています。コードから消す、新しいコミットを push する、リポジトリを消して作り直す、のどれも、悪用を防ぎません。
- 失効する。 漏れた範囲のキーを全部失効し、新しいキーに入れ替えます。Gemini API の公式の手順は、新しいキーを作り、アプリを新しいキーで動かし、動くのを確かめてから、漏れたキーを無効にする順です。サービスを止められないときの順番は、事情で変わります。今回は、悪用が続いていたため、失効を急ぎました。
- 利用の記録を見る。 Gemini API の公式の案内は、請求と API の利用の記録を確かめるように書いています。GitHub Docs も、不正な利用が無かったかを確かめる手順を置いています。今回は、提供元の記録を分単位に並べて、外の仕組みで使われたと分かりました。
- 広げない。 IPA の「セキュリティインシデント対応の手引き」は、被害が広がる可能性があるときは、ネットワークの遮断、機器の隔離、システムの停止を行う、と書いています。今回は、管理画面を止め、外への通信を断ちました。
- 記録を残す。 同じ手引きは、電源を切るなどの不用意な操作で、残っている記録を消さないように書き、証拠の保全と、発生からの時系列の整理を挙げています。今回は、証拠を退避してから作業を進めました。
この順番のうち、迷いにくいのは 1 と 2 です。止める前に、自分のキーがどのサービスのどのキーかが、一覧で分かっていると動きやすくなります(編集部の考えです)。A3 で分けておく理由は、ここにもあります。
この回で分かったこと
読み手へのひとこと
今日できるのは、いま使っている AI のキーが何本あって、どこに書かれているかを、一覧にすることです。次に、使っていないキーを失効します。この 2 つは、今回いちばん効いたことと、同じ備えになります。
連載は、この回で終わりです。最初から読み返すときは、第 1 回 AIのAPIキーが中国圏から不正利用された朝、まずしたことからどうぞ。
参考にした公式の情報
- OpenAI「Production best practices」(API キー・利用の上限・通知)
- Claude Docs「Rate limits」(Spend limits・ワークスペースごとの上限)
- Claude API「Update API Key」(キーの所属とワークスペース)
- Google AI for Developers「Using Gemini API keys」
- Google Cloud「API keys」(キーの制限・入れ替え)
- Google Cloud「Create, edit, or delete budgets and budget alerts」
- GitHub Docs「About secret scanning」
- GitHub Docs「About push protection」
- GitHub Docs「Remediating a leaked secret in your repository」
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」
- IPA「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」(付録8)
- IPA「情報セキュリティ6か条 解説編」
- GitHub Blog「Keeping secrets out of public repositories」(2024年2月29日)
- Next.js ブログ(セキュリティの告知の掲載先)

連載・実録 AIのAPIキーが盗まれた日
執筆者
株式会社Game 代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。
この記事は、Claude Code を使って執筆しました。画面の画像は、検証環境で実際に操作して撮影したものです(引用の画像は出典を記載しています)。内容の誤りはお問い合わせからお知らせください。